小さな自然再生とは?

小さな自然再生とは、文字に記されたとおり、小規模で速やかにかつ低コストで行うものです。このように定義すると実に漠然とした定義と感じるのではないでしょうか。そこで、「小さな自然再生」を明確に定義するのではなく、逆に「小さな自然再生」を満たすいくつかの条件をあげて、そのいくつかを定性的に満たすものを「小さな自然再生」として捉えるのが良いと考えています。これまでのいくつかの事例をながめて整理してみると、こんな3つの条件が浮かび上がります。

  • 自己調達できる資金規模であること
  • 多様な主体による参画と協働が可能であること
  • 修復と撤去が容易であること

条件1:自己調達できる資金規模であること

1つめは、「発案者や実施する自らが資金を調達できる範囲であること」です。誰もが、数億円をかけて立派な魚道を設置することや、周辺の土地を買って川を蛇行させるようなことはできません。逆に、10万円ぐらいなら小さな団体や自治会でも調達できるかもしれません。金額の大小ではなく、資金の調達様式の問題、すなわち賛同者の協働によってまかなえる範囲であることが1つ目の条件となります。

条件2:多様な主体による参画と協働が可能であること

2つめは、「作業や計画に対して様々な主体が参加できること」です。公共事業とは違い、誰にも発案チャンスがあり、関係者以外の人も関わることができて、ちょっとだけ手伝う人、がっちり参加する人など多様な関わり方が存在することです。例えば、高校の同級生とばったり出会って、盛り上がり、意気投合して、町内会や知人を巻き込んで自然再生をはじめるというやり方もありでしょう。あるいは、漁業組合さんが河川の惨状を見兼ねて、大学の研究者や地元の小学校、自治体に呼び掛けて自然再生を進めるという方法もあるのでしょう。このように、発案者や意思決定者、作業者が誰であっても構わないというのが2つ目の条件となります。

条件3:修復と撤去が容易であること

3つめは、「何か課題が生じた場合には、手直しや撤去が容易にできること」です。多くの人が利用する水辺空間において、自然を相手にして、何かを設置したり、改変するため、筋書き通りにすすむことは、むしろ少ないと考えるべきでしょう。そうなると修理や維持管理はもちろん、全面撤退することが速やかにできること。もう少し場所をずらせば良かった、もっと大きな石を置いておけばよかった、そんな反省を活かして再設置できる規模や仕組みであることが3つ目の条件となります。

これら3つの他にも条件や要素はあるのかも知れませんが、これらの条件を有するものが、小さな自然再生として捉えれば、結果として小規模になる傾向があり、小さいことと親和性が高くなります。
なお、「小さな自然再生」の英名を議論する中で、多様な人々が参加して取り組めるという観点を強調したいと考え”collaborative nature restoration”の用語を当てました。この言葉は海外の森林管理や水質管理の分野でも使われはじめていますが、重要なのは、物理量ではなく関わり方の問題であり、このことが、「小さな自然再生」が従来とは違った様々なメリットを生み出すと考えています。

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