ハの字バーブで淵づくり

Profile岐阜県 / 桂川
PDFリンク

case05_photo1

バーブ工(ばーぶこう)ってご存知ですか?流れに対して上流側に向けて急角度で設置する高さの低い水制のような工法です。ここ桂川では、河川改修で河床に露出した粘土の上に土砂をため、下流側に淵を作る目的で、向い合せハの字にバーブ工を設置してみました。さて、結果は…

経緯・目的

  • バーブ工を作ってみよう!

バーブ(barb)とは、辞書によると「(矢じり・釣り針の)あご、かかり、戻り、さかとげ」を意味する英単語です。「バーブ工」は、川の流れに対して、河岸から上流側に向けて突き出して設置する、高さの低い水制の一種で、流れに運ばれてくる砂を溜めて寄り洲を形成することを目的とした河川工法です。土木研究所自然共生研究センターでは、バーブ工の持つ「寄り洲を形成する機能」に着目して、調査・研究を進めてきました。なぜならば、バーブ工が日本の中小河川の抱えるいくつかの課題に対して、有効な工法ではないかと考えているためです。バーブ工の機能の解明と設計法を提案するための研究会を平成23 年から行っており、この事例は、岐阜県河川課が毎年技術者向けに行っている勉強会とタイアップして、人力施工で実際に作ってみたものです。

  • 改修したら河床に粘土層が出てしまった川に土砂を貯める

現場となった桂川は、木曽川水系揖斐川の支川で、かつて揖斐川の後背湿地であった場所に位置しています。下流から改修を進めてきた結果、河床に粘土層が出るようになってしまいました。粘土が露出した河床は、岩盤が露出しているのと同様、河床を利用する生物によっては利用できる隙間がありません。そこで、バーブ工を2つ向い合せに設置することで、上流側に土砂を貯め、下流側の真ん中に淵を作る、「ハの字バーブ工」にチャレンジすることになりました。

活動の流れ

case05_fig1

工法の説明・工夫した点

  • 人力作業で完成させることを前提とした材料・構造

 最初から「人力で施工できること」を前提条件として、検討を行い、「捨石をネットでくるみ、木杭で固定する」方法を採用しました。また、仮に壊れても、実害がないことも前提条件としています。この構造は、最も良く掘れやすい上流側の先端部が破損しても、袋から石が抜けるだけで済むのも特徴です。

  • 捨石でものを作るのは、人海戦術が最適!

 大した量の石ではないが、重機ではなく人力で運ぶとなれば、かなりの重労働。参加者一同、最初にやったことは石運びでした。石を仮置きしておいてもらった地点から現場までの約50 m、ひたすら石を運びました。30 名程度の参加者があったため、なんとか無事運ぶことができました。小さな自然再生には、ときとして人海戦術も必要!

  • 河川管理者が材料を準備

 勉強会を兼ねた施工当日に向けて、河川管理者(岐阜県揖斐土木事務所)の方で、維持修繕で契約している施工業者に指示して、材料となる割栗石を現場近くに搬入してもらうことができました。また、現場に下りる仮設階段を準備してくれました。河川管理者の協力により、実現することができた現場です。

case05_photo2

case05_fig2

使用材料・工具

case05_fig4

実施体制・スキーム

case05_fig3

岐阜県河川課が例年行っている「いい川づくり勉強会」とのタイアップとして企画し、具体的な計画は、土木研究所自然共生研究センターの方で行いました。使用する材料の一部(割栗石)は、河川管理者である県土木事務所から、年度毎に契約している維持修繕工事の業者に指示してもらい、調達し、ネット、木杭等は別途調達しました。

当日の施工は、バーブ研究会の岩瀬さん(次頁現場のキーパーソンを参照)に指導していただき、参加者一同分け隔てなく重い石を運び、汗をかきました。

現場のキーパーソン

case05_fig5

効果

【一次時的効果】

  • モニタリング調査の結果、上流側の河床高が10数センチ上昇。粘土層の上に砂礫層をつくることができました。また、上下流の平瀬と比べると、ハの字バーブ周辺には、わずか数m の狭い空間に、水深・流速・底質がかなり多様な場が存在していました。流速、水深がとても多様になっています。(左下図参照)
  • 簡易な生物調査を実施したところ、平瀬には少ない魚種が多く集まっており、しかもそれらが種と個体サイズによって場の使い分けをしていました。バーブを左右非対象に設置した結果、不均質な場が形成され、結果として、場の多様性の向上に寄与しています。
  • バーブ工周辺を平面的に9分割し、魚種ごとの個体数分布を示しています。マス中の数字は個体数を示します。(右下図参照)魚種ごとに利用している場所が異なります。(自然共生研究センター調べ)

【二次的効果】

  • かっちりした公共工事に慣れている参加者にとって、人力作業で構造物をつくる経験はとても新鮮でした。また、改修済みの河川に、環境改善等を目的として簡易な方法で一工夫する、という思想もまた新鮮であったように思われます。このことが、後に岐阜県で「小さな自然再生」に取り組むきっかけの一つとなったと考えられます。
  • 2014 年8月の出水で、ついにハの字バーブ工の先端が破損しました。本原稿執筆時点で、左右のバーブが2/3 くらいずつ残った状態になっています。しかし、全体が流失してはおらず、上流側にためた土砂も維持できており、多少壊れても平気なようです。

case05_fig6

case05_fig7
case05_photo3

地域から探す

再生の対象から探す

日付から探す