川の水が減ったときの逃げ場所づくり

Profile滋賀県 / 高時川
PDFリンク

case08_photo1

瀬切れした川では、橋脚下流のくぼみなどの水たまりにたくさんの魚が集まります。これをヒントに、根固めブロックをおくだけ!の簡単な魚の避難場所(シェルター)を造ってみました。

経緯・目的

  • 夏場に川から水面が消える??

扇状地を流れる天井川では、夏場に晴天が続けばすぐに流れが細くなり、流水が一連区間で覆没してしまう「瀬切れ」と呼ばれる現象が生じます。「瀬切れ」になると川から水面がなくなり、魚類などの水棲生物の生息場所が一時的に消滅します。さらに下流から遡上してくる魚も、より上流には移動できなくなります。そこで、小さな自然再生によって、水棲生物たちが一時的に避難できる場所(シェルター)をつくる試みを始めています。

  • 水棲生物の避難場所はどんな場所?

瀬切れ時に水面がなくなっても、普段流れがあるときに淵が形成されている場所には、水たまりができていました。この水たまりには、水を求めてアユがたくさん集まっていました。水たまりは、川床の下を流れている水とつながっているのです。

  • どうやって避難場所をつくるか?

地下水位の経年変化から、半年に1回生じる程度の渇水の場合、約1mの淵(深み)があれば、淵のところで水面が残るだろうと予想しました。そこで、現場近くに備蓄されていたブロックを使って簡易な水制工をつくり、川の流れの力を利用して1m 以上の深さの淵をつくろうと試みました。

  • どこに避難場所をつくるのか?

避難場所をつくるには、安定的に地下水位が地表面近くにある場所での対策が効果的です。そこで、統計解析モデルのシミュレーションによって、あらかじめ水面の有無を予測。河川管理者がもっている定期縦横断測量データや、航空レーザー測量のデータ、河床面から深さ約3m 程度まで削孔して設置した水位計による地下水位観測データ、目視による瀬切れの現況調査等を駆使しています。こうした地道に蓄積された科学的データが小さな自然再生を行ううえで効果的な場所を教えてくれます。これまで、河川での渇水対策は、複雑な河川や地下水の流れについての数値解析が必要なため、有効な方法が確立されていませんでしたが、比較的簡便な統計モデルを用いて立地選定できるのがポイントです。

(参考文献:瀬切れ河川における河川整備計画段階の生息場所確保手法の提案,兼頭ら,応用生態工学会第18回研究発表会,ポスター発表PM-58,2014)

case08_photo2シェルターを発見!瀬切れしている時でも、橋脚の下流側に形成された深みにアユが群れていました。

活動の流れ

case08_fig1

工法の説明・工夫した点

  • 予測モデルの結果を踏まえ、淵が形成されやすい箇所を狙って試験施工を実施しました。闇雲にやってみるのではなく、科学的な根拠に基づいて実施することで、失敗しても原因を分析することができ、次の手が見えてきます。たとえ、大きな改変を伴わない「小さな自然再生」だとしても、それなりの効果を上げるためには、技術的な検討をしっかりとやっておくことがとても重要です。
  •  また、試験施工では、「瀬切れが発生するものの、みお筋が安定している場所」を狙い、「小型クレーン」を使って、災害時用に備蓄してあった「根固めブロック」を投入しました。水理条件だけでなく、アクセスや工事のしやすさも検討することが効果的です。
  •  まずは「横向き水制」で実験し、その結果をよく見ながら、次に「上向き水制」での実験を予定しています。このように、結果にもとづいて、順応的に形状を変えられるよう、「あるもんで、ついでに」工事を心がけています。

case08_fig2

case08_photo3

使用材料・工具

case08_fig4

実施体制・スキーム

case08_fig3

現場のキーパーソン

case08_fig5

効果

【一次的効果】

  • 予測モデルでは河床低下1m時に水面が出現するとの結果が得られている場所に対して、横向き水制1基を試験施工しました。施工3ヶ月後の5月の瀬切れ発生日の観測では、河床が70cm 程度低下し、そこに水面とアユの生息が確認されました。通常ならば、完全に水面がない状況でしたが、施工効果が3ヶ月で顕在化しました(しかも非出水期)。
  • 引き続き、水面予測モデルに基づき、淵形成による効果が高そうな箇所で、簡易水制工の追加試験施工を行い、水制の規模(高さ、長さ等)と洗掘深の関係や、淵形成の効果を研究し、理論と実践が連動した対策を進めていきます。

【二次的効果】

  • 滋賀県では、今回の高時川での事例研究を踏まえて、滋賀県内の他の河川での適用できるよう、天井川での現実的な瀬切れ対策について「河川維持河相の手引き(素案)」を作成しています。2011 年度末には有識者ワーキングを設置。ワーキングの議論を通じて同手引き書を策定し、河川維持流量の確保が難しくて困っている各河川の整備計画をバージョンアップさせていく予定です。
  • 河川上流に大規模な貯留施設がない限り、通常の多くの中小河川において、いわゆる「維持流量」を確保するのはとても難しいのが現実です。今回の高時川での取り組みは「小さな一歩」ですが、河川生態系の保全を、流量だけではなく河川形状とあわせて考えようとするものです。
  • この取り組みでは、流況に加えて河川形状の改善により生態系を保全する、「維持河相」という概念を持ち込んでいます。言いかえると、「維持流量」を確保できなくても、生態系の保全や渇水影響の緩和は可能かもしれないということを意味しています。この概念と理論体系、施工技術が整理されることで、「維持流量」の確保に困っている全国の多くの河川での生態系の保全に貢献できる可能性があるのではないかと、期待が膨らみます。

case08_photo4

地域から探す

再生の対象から探す

日付から探す